今回ご紹介する逸品は、大阪市の扇町公園そばにある人気店「パティスリー ラヴィルリエ」の焼き菓子です。「お菓子づくりの要は、“焼き”。小麦粉の一粒一粒まで火を通すことを意識しています」とオーナーパティシエの服部勧央(ゆきひろ)さんは話します。最初は高温で焼き、徐々に温度を下げたり、余熱で火を通したり、とそれぞれのお菓子に合わせて焼き方を変えるのが、美味しく焼き上げるコツ。「焼いて水分を抜くことで、素材の持っている風味、香りを立たせることが狙いです。日本はフランスに比べて湿度が高いので、現地の焼き方を踏襲すると生っぽくなりがち。生地の様子を見ながら、慎重に火を入れています」。そうして焼き上げられるサブレ類は、サクッと軽やかで小麦の香りと、バターの風味も豊か。スペシャリテのフィナンシェやケークも、しっとりした食感で食べごたえがあります。微妙なさじ加減で火を入れ、シンプルな焼き菓子をリッチな味わいに仕上げる手腕はさすが。これぞ、ラヴィルリエの真骨頂です。
<Photo>サブレ・ナンテ200円(左上)、フィナンシェ220円(左下)、ディアマン・テヴェール200円(中央)、ガレット・ブルトンヌ210円(右下)、ケーク・アングレ250円(右上)※すべて税込
素材を活かす構成で、個性際立つ
フレッシュチーズであるフロマージュブランのクリームとベリーのムースを組み合わせた「シャンソン・ド・フルール」。衝撃的な美味しさのフロマージュブランを活かすために考案した、軽やかながらもコクのある一品です。常連客に人気の「エクリプス」は、ミルクチョコと発酵乳のムース、その中に潜む抹茶のテリーヌ・ショコラ、甘酸っぱいパッションフルーツのジュレの組み合わせが絶妙。ずっしり重く、味わいも濃厚です。「トール・ショコラ」は、苦味がなく、バナナのような香りのチョコレートを使用したムース。生クリームを使わず、メレンゲとチョコレート、バターでムースを仕上げているので、チョコレートがダイレクトに味わえます。
<Photo>左からシャンソン・ド・フルール580円、エクリプス630円、トール・ショコラ540円(すべて税込)
「私福の時間とは?」
パティシエがプライベートで至福の時を感じるスイーツをリレー方式で毎月ご紹介。今回の焼き菓子を推薦いただいた、村山さんのミゼラブルはvol.23で掲載しています。
「お菓子をつくるときはまず、お客様にどう楽しんでほしいか、から考えていきます」という服部さん。その答えを導き出したら、そこから接客や箱詰めの方法、ディスプレイの仕方、仕上げ方、焼きの温度、素材……と逆算してつくり込んでいきます。「こうしたプロセスを経て、初めてお菓子は美味しくなる。答えのないままつくると、薄っぺらい味になりますから」と、あくまで食べる人のことを中心に考えてお菓子づくりに取り組んでいます。もうひとつ大切にしているのは、自身が変化すること。クロワッサンやアイスクリームも手がける服部さんは最近、フランス菓子の製法でお茶菓子づくりに初挑戦したそうです。「制約が多くてとても難しかったのですが、めちゃくちゃ楽しかった。これまでフランスを追いかけてきましたが、日本人にしか表現できないこともあると実感できたので、今後もチャレンジしていきたい」と目を輝かせます。新しいお菓子に挑戦し、新境地を拓いた服部さん。今後の展開が楽しみです。
SHOP DATA
Patisserie Ravi,e relier(パティスリー ラヴィルリエ)
オープン以来、行列ができる人気店として知られています。個性豊かな生菓子はもちろん、ブリオッシュなどのヴィエノワズリ、焼き菓子などが勢ぞろい。スイーツ好きの心をとらえています。店内にはテーブル席が用意されているので、つくりたてのスイーツを飲み物と一緒に楽しむことも。常に多くのゲストで賑わいますが、待つのが苦にはならない温かな接客も人気の秘密です。
2016年4月より連載してきました「私福の時間」は、今号が最終回となります。2年間にわたってご愛読いただき、誠にありがとうございました。次月より新連載がスタートいたしますので、ぜひご期待ください!