Art&Craft

味わい深いクラフトワークを行う
木と和紙・絵画造形の工房をご案内。

独自の世界観とスタイルを持ってものづくりを行い、国内外のメディアで取り上げられているSHOBU STYLE(鹿児島市)。彩り豊かなアート作品だけでなく、味わい深いカトラリーや和紙なども制作しています。後編では、木と和紙・絵画造形の工房をご案内します。

前編はこちら


SHOBU STYLE 木の工房

ただ黙々と木を削る。そんなシンプルな方法から味わいと温かみに満ちたカトラリーやテーブルウェアを生み出す「木の工房」。こちらのクラフト・ワークは、一見すると無骨で素朴。それでいて、木の質感や手に馴染む心地よさにまでしっかりとこだわって作られています。

木の工房はもともと、社会福祉法人太陽会しょうぶ学園の木工班としてスタート。“凝り性”の統括施設長 福森伸さんが独学で家具製作を始め、学園の利用者がお手伝いするというスタイルでした。当初から福森さんがこだわったのは、福祉施設が作ったものと言わなくても売れる、ちゃんとした商品を作ること。展示会などを重ねて腕を磨き、さらに大きな転換を迎えます。

決められた通りに切ったり削ったりすることが難しい利用者に、「ちゃんとしたもの」を求めるのではなく、自由に得意なことや好きな作業を行ってもらい、福森さんや職員が利用者の作業の活かし方を考えるスタイルへと徐々にシフト。たとえば、木に釘で傷を付ける行為は独特の模様づくりに。こうした発想の転換によって、利用者と職員が協働できる工房へ進化を遂げたのです。


「木の工房」のクラフト・ワーク

木の工房では、トレーや器、カトラリーを中心に制作。削り跡と木目が風合い豊かな雰囲気を醸し出し、サーバやお皿は雑誌でも紹介されています。国内約30店のほかにアメリカやイギリスのショップでも販売され、作品展も不定期で行われています。また、木の工房のクラフトはWebショップにて不定期で販売されます。販売の詳細はメール(web-shop@shobu.jp)にてお問い合わせください。


味わい深いクラフトを生み出す「木の工房」

本格的な木工設備を持つ木の工房では、 13名の利用者と3名の職員が協働。利用者は、ノミで木を削ったり、ロクロを回したり、電動サンダーで研磨したり、できることや好きなことに応じた作業を行っています。技術的に難しい部分を担当する職員は、みな独学で腕を磨き、お箸1本の制作から始めて家具製作ができるようになったとか。クラフト商品として世に出す前には、厳しい品質チェックも行われています。


制作風景動画

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SHOBU STYLEの魅力とは?

無心で作られたものに
美しさや力強さが

前編でご紹介の「nui project」などアート作品やクラフト・ワークが「福祉施設の」という冠を超えて、なぜ注目されるのでしょうか。アメリカで美術を学び、アーティストとしての活動経験を持つデザイン室の榎本紗香さんにお聞きしました。

「SHOBU STYLEのアート作品の多くは、作家である利用者が『売りたい・評価されたい・誰かを喜ばせたい』といった目的を持たずに制作しているように見受けられます。何にも向かっていない、ただ時間と行為が重なってできたものは、無垢で自然のまま。美しさや力強さが感じられ、そこに私は惹かれます。たとえば、苔が生えた木の美しさや雨粒が流れる石の美しさなどと感覚的に似ていますね。丸・線・点などシンプルな造形の蓄積で生み出された美しさは、原始的で見たときに心が“ざわざわ”するんです。こうした本能に訴えかけるような表現が、SHOBU STYLEのアートのすごいところなのかなと思います」

手抜きをしないスーパー素人

統括施設長 福森さんは注目される理由をこう推測しています。「僕たちは決してプロではなく、独学で腕を磨いたスーパー素人だと思っています。プロは合理的な手段を知っていて手を抜いても、ちゃんとしたものが作れますが、素人は手を抜いたらバレるんですよ。だから僕たち職員は、スーパー素人として手抜きをしない。これもうちのよさだと思います」

福森さんはもうひとつ興味深いお話を聞かせてくれました。「利用者に布や粘土などの素材を渡したら、躊躇なく制作に取りかかります。構想を練ったり、下絵を書いたりせず、ほとんど即興に近いんですよ。そして、同じ行為を繰り返し続けられる。制作の現場では、即興と反復という両極端なことが起きているのです。なかなか真似のできないすごいことですよ。利用者がその作業を行うことで幸福感が得られるのであれば、それが一番よいこと。その上でアートとして世に出すかしっかり検討して作品化しています。福祉施設の押し売りではなく、利用者・職員・購入者みんなが幸せになることが必要なのです」


SHOBU STYLE 和紙・絵画造形の工房

福満 信夫

「和紙・絵画造形の工房」は、文字通り、趣のある和紙などを制作する「和紙班」と絵画や立体作品を制作する「絵画造形班」の2つで構成されています。和紙班は、1993年に和紙工房として設置され、利用者は熟練した職人さながらの慣れた手つきで、ステーショナリーなどの商品となる和紙を制作。こちらで作られる和紙は、少し厚めで素材感たっぷり。手仕事の温かみを感じさせます。

絵画造形班では、利用者が好きな素材を使って自由に絵やオブジェなどを制作。独自の世界観を持ったさまざまな作家が鮮やかな色彩や紋様、個性的なタッチ、造形で創造性豊かな作品を生み出しています。


「和紙・絵画造形の工房」の作品

濱田 幹雄

濱田 幹雄さんの作品は、SHOBU STYLE作品の代表格として、さまざまな美術館で展示。視野がかなり狭い視野狭窄という目の疾患を持ちながら、線や丸といったシンプルな形が連続する作品を力強いタッチで描いています。

吉盛 貢世

吉盛 貢世さんは、好きなものを好きなように描く絵画造形班の特徴を体現する作家の一人。漫画が大好きで魚に名前を付けて、キャラクターデザインのような個性的な魚を描き、どの魚も豊かな色彩と独創的な模様が印象に残ります。


個性と技が輝く「和紙・絵画造形の工房」

至る所にカラフルで力強い線や丸などが描かれた絵画造形班のアトリエ。常時12名ほどの利用者が、布や和紙、画用紙、ダンボールなど、お気に入りの素材を使って独自の世界を表現しています。和紙班の工房では、利用者の安全に配慮して火や薬品を使う工程は職員が担当。紙すきも利用者が作業しやすい方法を取り入れ、伝統的な紙をすく方法ではなく、木の枠に上からかけ流すスタイルで、オリジナルの和紙を制作しています。


制作風景動画

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「和紙・絵画造形の工房」のクラフト・ワーク

和紙班では、楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)を材料にした和紙をすき、ステーショナリーや柿渋で染めたバッグなどの商品に仕上げて販売しています。ユニークなデザインのうちわは、絵画造形班が絵付けしたもの。絵画造形班の利用者が手がけた絵は、職員の手によってTシャツなどに商品化されています。木の工房と同様に、商品として販売する際には「一つの商品として格好よかったり、気持ちのいいものであってほしい」と職員が丁寧に仕上げ、細部にわたって品質もチェックされているそう。 「和紙・絵画造形の工房」 の商品は、Webショップにて不定期で販売。詳細はメール(web-shop@shobu.jp)にてお問い合わせください。


ものづくりだけではないSHOBU STYLE

音パフォーマンス otto & orabu

ものづくりだけでなく、音パフォーマンスのプロジェクト「otto & orabu」も国内外から注目を集め、大手アパレルブランドのCMのBGMに起用された実績も。民族楽器などを使うパーカッショングループと叫びのコーラスが奏でるコラボレーションは、心地よい不揃いな音を生み出しています。独特の音とリズムの世界には、美しく揃った音楽にはない、人を引き込ませる魅力があるようです。

音パフォーマンス otto & orabuのライブ映像はこちら

どんな状況でも変わらないこと

SHOBU STYLEの敷地内には、アートギャラリーやクラフトショップ、コミュニティアートホール、パン工房、カフェ・レストラン、そば屋など文化活動と地域交流を目的とした施設が整備されていますが、コロナ禍で休業を余儀なくされています。福森さんは今の状況をこう話します。

「僕たちは流されず、逆らわず、その間でいたいですね。そもそもSHOBU STYLEの取り組みの目的は“利用者がよりよく暮らせる”こと。アートやクラフト・ワークはそのいち手段に過ぎないんです。利用者の中には、園内で四十数年暮らし、外出は年に10回くらいという方が多いのですが、ずっとここにいて嫌な顔をされないのは、居心地がよいからだと思います。敷地内には森があって水が流れ、ロバがいて、自然の中でゆったり散歩もできます。ここでの経験だけで豊かに生きることができているのかなと感じます。利用者にとっても職員にとっても居心地のよい場所であるか。常にそれを考え、目標にしていて、それはどんな状況でもなにも変わらないですね」


SHOBU STYLE(しょうぶ学園)

[住]鹿児島県鹿児島市吉野町5066
Tel. 099-243-6639

●新型コロナウイルス感染予防のため、工房内の一般見学は休止しています。

公式サイトはこちら