For the best tasting rice
最近、土鍋でご飯を炊く人が増えたり、おひつがちょっとしたブームになったり、美味しいご飯を味わうための道具が見直されています。せっかく土鍋やおひつを選ぶなら、造りがよくデザインも洗練され、長く愛着を持って使えるものを探したいところ。今回は、土鍋で有名な萬古焼(ばんこやき)のブランド「4th-market」と、伝統的な技法でモダンなおひつをつくる「中川木工芸 比良工房」を訪ねました。土鍋やおひつはもちろん、そのほかにも魅力的なプロダクトをご紹介します。
毎日食べる白いご飯。こだわりのお米を土鍋でふっくら炊き上げれば、いつもと違う特別な夕食になりそうです。家庭によっては、ご飯を土鍋で炊くようになって「炊飯器がいらなくなり、キッチンのスペースに余裕が生まれた」といった声も。美味しいご飯を土鍋で炊くなら、専用のご飯釜を探してみては。
三重県四日市・菰野(こもの)町の窯元3社が共同で営む萬古焼ブランド「4th-market」では、見た目に可愛く、使い勝手もよいご飯釜を展開。“他では真似できないものづくり”を追求する4th-marketには、ご飯釜だけでなく、デザイン性の高い土鍋やユニークなお鍋もそろいます。
「コセール ご飯釜」は、白・黒・黄の3色展開。粗めの土が使われ、素朴な風合いが印象的です。美味しいご飯が炊けるようお米の対流を考慮し、形は寸胴型に。熱伝導率が低い土鍋は保温性も高く、ご飯が冷めにくいのも特長です。直火はもちろん、オーブン・電子レンジも使用可能(電子レンジでの炊飯は不可)。1合用3,740円・3合用 6,050円
「カゴ ご飯釜(2合用)」は、コンパクトながらシックな佇まいで、ほどよい存在感を放つお鍋。洗練されたデザインだけでなく、機能性も優れています。その名の通り籠をイメージして作られ、ふち全体が持ち手になっているため、どの角度からも持つことが可能。また、吹きこぼれにくくするために内蓋も備えています。 カラーは黒・赤銅の2色、こちらもオーブン・電子レンジ使用可能(電子レンジでの炊飯は不可)。 5,390円
スタイリッシュな形状で、現代の生活にも馴染む土鍋「フエゴ 8号鍋」。スマートな印象ですが、意外と深さがあり、ご飯は3合まで炊くことができます。2・3人用の煮込み料理や蒸し料理にも最適で、オーブン調理にも使える万能型のお鍋です。 カラーは白と茶の2色展開。6,600円
耐熱陶器である土鍋は、一般的に釉薬の開発が難しく色合いや質感が限定されてしまいがち。「カセロラ 8号鍋」は独自のものづくりを追求する4th-marketならではの土鍋で、「艶のある白・黄」と「マットな白・茶」のツートンカラーを展開しています。5,830円
「手間を惜しまず挑戦して、これまで見たことのない土鍋をつくりたい」と語るのは、4th-marketの土鍋を製作する三鈴陶器代表の熊本泰弘さん。洗練されたフォルムに使い勝手のよいデザイン、他にはない色合いや質感を持つ土鍋たちは、どんな所でどのようにして作られているのでしょうか。工房内を見学しながら、ブランドのこだわりなどをお聞きしました。
江戸時代中期に発祥したと伝わる萬古焼は、現在も三重県の四日市や菰野町に数多くの窯元がある一大産地。国内の土鍋生産高の8割以上を萬古焼が占めています。そんな萬古焼は、“模索する産地”だったと熊本さんは話します。
「萬古焼はもともとは急須の産地として知られ、明治時代には半磁器を開発して、昭和に入ると洋食器の生産で発展しました。その後、海外製品に押されると、耐熱性の高い土鍋づくりに着目。ガスが普及し、それまでの土鍋ではガスの熱に耐えられず割れてしまうので、土を工夫して耐熱性の高い土鍋を生産すると瞬く間に売れて。土鍋の一大産地になった萬古焼ですが、時代と共にだんだん土鍋を買う方も減ってきて、このままでは衰退する一方だなと。そんな危機感を持った他の窯元と共同で、2005年に4th-marketを立ち上げることになったんです。
4th-marketは、四日市を英語読みにしたものです。設立したメンバー4名にデザイナーも加わり、手間を惜しまず、 “自分たちが使いたいと思う物、長く愛着を持って使われる物”を作ろうと決意。大量生産なら効率を考えて、デザインや色合い、質感にとことんこだわることは難しいですが、4th-marketはたとえ少量生産になってでも、 時間をかけて丁寧に製品を開発・製造しています」
これまでの土鍋づくりで蓄積された技術を活用しながら、 4th-marketならではの高いデザイン性とオリジナリティに富んだ土鍋を作る三鈴陶器の工房。土鍋の製作は、ペタライトという鉱物を混ぜた土を、石膏の型を使って成形するところから始まります。型に入れた土は機械で成形。一見、簡単そうに見えますが、土の入れ方や土を成形するコテの当て方次第で品質が変わってしまうほど、とても繊細な作業で熟練の職人さんが行っています。
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成形した土は、ろくろを使って削り、さらに形を整えていきます。この作業も難しく熟練した技が必要に。熊本さんは「土から成形して形を整える職人の数が減り、確保が難しくなってきています」と話します。また、 4th-marketの土鍋は、持ち手のデザインが特徴的。製品によっては持ち手をギュッと押し込むようにして手作業で取り付けています。
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成形した土を乾燥させ、表面をこすり、素焼きしたのちに釉薬をスプレーで吹き付けます。この釉薬に大きなこだわりがあると熊本さん。「ドボンと釉薬に漬け込むほうが効率的なのですが、2色付けを可能にするためと、ピンホール(釉薬の部分に凹みができること)を防ぐために、手間はかかりますが、スプレーで吹き付けています。
また、耐熱性を確保するために釉薬にもペタライトを使うのですが、そうすると出来上がった土鍋の質感は艶がなく、色も黒や白と限定されてしまいます。でも、うちは長年にわたって土鍋製作を行ってきたので、質感や色のバリエーションを出すためにオリジナルの釉薬を作り、ノウハウを培ってきました。釉薬の開発は試行錯誤の連続なので時間も手間もかかりますが、新しい手触りや色合いの耐熱食器を愉しんでいただけるよう、挑戦していきたいですね」
「オジヤ鍋」は、 1人用のおじやや雑炊はもちろん、ラーメンやうどんなどの麺類にも使える小鍋。オーブン・電子レンジも使用可能です。丸みを帯びたフォルムと持ち手のデザインが愛らしく、温かみのある質感で、どこかホッとする佇まい。カラーは黒茶と白の2色展開。 2,970円
1人用の小さな「ポワレ フライパン」。こちらも直火・オーブン・電子レンジに対応。調理をしてそのまま食卓に運んでお皿代わりにもなるシンプルでスタイリッシュなデザインが特長です。エッグベーカーやグラタン皿としても重宝するほか、蓋付きなので蒸し料理も可能です。カラーは白と茶の2色展開。2,860円
伝統的な木桶の製作技法を昇華させ、モダンなシャンパンクーラーや木のあるがままの姿を活かしたプロダクトを生み出す「中川木工芸 比良工房」。日本の伝統工芸が現代の暮らしにも馴染むよう、革新的なデザインを高い技術力で実現させ、海外でも高く評価されています。こちらの工房で、長く愛着を持って使い続けたいおひつを見つけました。
おひつは、木がご飯の水分を吸収・放出することで、炊きたてのしっとり美味しい状態をキープ。さらに、洗練されたデザインで毎日の食卓に上質感を与えてくれるのが、中川木工芸のおひつです。
「おひつ SHORI」は、イタリアのデザイナーがデザインを担当。蓋の上にある持ち手は、しゃもじ置きにもなり、蓋をおひつにかけることができる優れもの。美しくモダンなフォルムに、機能的なデザインも備えた逸品です。
3合用75,350円
モダンなシャンパンクーラーやおひつに共通するのは、伝統的な木桶の製造技法が使われていること。まず、丸太を割り、曲面のある木片にしていきます。この木片を円形に組み合わせ、タガで留めると木桶に。お弟子さんを何人も抱える中川木工芸でも、丸太を割るのは主宰する中川周士さんの仕事。木の繊維を見極め、木片の曲面も計算しながら無駄なく割り出すのは難しい作業です。
「丸太は、割ってみないと中身がわからないんです。まっすぐ美しい木目をしているものもあれば、節があって木目が歪み、木桶には向いていないものも。木にもそれぞれ個性があって、製品にあわせて木を加工するのではなく、木に職人があわせて上手く割り出して、それぞれの木にあった物を作ります。これは木桶づくりの大きな魅力でもあるのです」
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木片は、カンナで削って曲面の厚みを調整しますが、幅はどれも不揃いのまま。幅が異なる木片を組み合わせてキレイな円を作り、仮どめしていきます。その後、全体をキレイに削り、仕上げにタガを付ければ完成。さまざまな幅の木片が集結して1つの桶が出来上がるのが、木桶の醍醐味だと中川さんは話します。
「木片の幅を均一にしようとすると、サイズの小さな木片は廃材になり、大きな木片はたくさん削ることで木くずがいっぱいできるなどロスが生まれ、非効率的で環境にも優しくないんです。それに、いろんなサイズの木片が集まって1つの桶ができるのは、多様性の象徴のようで、現代社会にもマッチした技法だと思います」
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木に人が合わせ、木のロスを抑える伝統的な木桶づくりは、木そのものへの愛着が根幹にあり、革新的なプロダクトを生み出す源となっているようです。「仕入れる丸太は、もとは樹齢何百年という自分よりずっとずっと長く生きてきた木ですから、敬意を感じます。人間にあわせて廃材を生み出すよりも、木にあわせてできるだけ万遍なく活用できるようにしたいのです。木桶づくりは、木との共同作業という感覚でやっていますね。
たとえば、丸太を割ると中に大きな穴が空いていることも。まわりの木目が歪んでいて、木桶には向かないけど、木目のカーブがなんとも言えない美しさを持っていて。これをなにかに活用できないかと考えたら、スプーンが作れるなと。発想次第で、木の個性にあわせた美しい物を作り出せるのが木工のおもしろいところですね」
木そのものの造形美を生かしたYORISIROシリーズ。丸太をくり抜いたように見えますが、木桶と同じ要領で作られているというのは驚きです。オブジェとして飾ったり、ステーショナリーを入れるケースにしたり、思い思いの使い方で愉しんでほしいと中川さん。「木桶に最適なまっすぐな木目ではない木も、活かし方によって自然の美しさを感じる物ができます。どんな物ができるかは丸太次第。1点ものなので、贈り物としても喜ばれています」
不規則な木目のウェーブが奥深い味わいを醸し出すプレート。人の手で計算された曲線ではなく、炎のゆらぎのような自然なうねりは、つい見とれてしまいます。飾ったり、お皿にしたり、使い方を考えるのも楽しみな一品です。
※ YORISIROシリーズやプレートは一点もののため常時販売されておらず、詳しくは中川木工芸 比良工房までお問い合わせください。
中川木工芸の3代目となる中川さんは大学で現代アートを学び、人間国宝である父に師事。伝統の技を磨きながらも、シャンパンクーラーといった丸型ではない木桶など、固定観念にとらわれないプロダクトを生み出してきました。デザイナーとコラボレーションしたり、カンナで削った木くずを集め、展示会で展示するタペストリーを制作したり、木工や木桶づくりの可能性を広げています。
その根底には、木桶を使う人が減るなかで、100年後も木桶の文化が残るように考えていると話します。「家業が桶屋だったからか、木桶が好きなんですよね。最近、中国の古い木桶を集めているのですが、作り方に感心させられることもあって、実に奥深い世界です。木桶の文化を残していきたいと考えれば、若い職人たちが活躍できる場も確保する必要があります」
中川木工芸のセカンドラインとして生まれたブランド「滋器 shiki」。若い職人たちがコンセプトづくりや商品の企画から、製作、販路の開拓までを行い、若い世代のユーザーに「木の良さを知っていただきたい」というコンセプトのもと、滋賀県産の木を使った器を展開。木目の美しさを際立たせるシンプルなデザインのコップと丸型のプレートがラインナップされています。コップL 8,250円、プレートL 13,200円。