Ceramic art
民藝の聖地 島根の器に続いて、今回はそのお隣「鳥取」の器に注目。鳥取も島根と並んで民藝運動が活発に行われ、器好き必見の窯元がそろい、現在も手仕事の美が感じられます。前編では、モダンな染分皿で知られる「因州・中井窯」と土鍋や独創的な模様で知られる「岩井窯」をご紹介します。
「因州・中井窯」の染分皿は、民藝のアイコン的な存在です。「民藝に興味のない人にも選んでもらえる器をめざした」と話すのは窯主の坂本章さん。民藝の普及に尽力した久野恵一さんの協力のもと、現代の暮らしに合った明るい色合いに調整し、著名なプロダクトデザイナー・柳宗理ディレクションシリーズを手がけたことで、中井窯の染分は一躍、全国区の人気アイテムに。
白・黒・青の3色と2色の染分をラインナップ。自然が生み出す優しい色合いが食卓に彩りを添えてくれます。3色の色分けが緩やかな「ゆるゆる3色」が2022年秋から新シリーズとして登場。
3色6寸皿(約21cm) 6,600円/染分7寸皿(約21cm) 6,600円/ゆるゆる3色8寸皿(約24cm)16,500円/染分4寸皿(約12cm)2,200円・ 6寸皿(約18cm) 4,400円
染分は平皿のほかに茶碗やカップ、そば猪口なども。「どんなに彩り豊かでもボディの形がよくなければ良い器になりません。美しい作品を観て自分のスタイルに変換しながら、シンプルで美しい造形を大切にしています」と坂本さん。手に馴染む美しいフォルムも中井窯の魅力です。
五郎八茶碗3,960円/飯碗(大)3,740円/そば猪口2,200円/カップ3,850円
生活者に楽しんでもらえる物を作りたいという坂本さんの言葉通り、飾るのが楽しみな品々も。コロンとした愛らしい姿の一輪挿しやミルクつぎのほか、モダンで凛とした雰囲気を醸す角瓶も、そのまま飾るだけで絵になる一品。
一輪挿し3,300円/ミルクつぎ2,970円/角瓶11,000円
鳥取駅から車で約30分、清流と鮎で知られる鳥取市河原町に「因州・中井窯」があります。昭和20年に開窯して以来、民藝の流れをくむ窯元として発展し、現在は3代目の坂本さんが息子さん夫婦やお弟子さんと共に作陶。独自の美を追求し、長年にわたってファンを魅了し続けています。
中井窯の染分は、天然素材を原料に丹念に作られた釉薬から生まれます。中でも地元の藁を使い、時間をかけて調合した白の釉薬がポイント。ビビッドな白ではなく、やわらかで自然な風合いの乳白色を表現し、これに銅を混ぜることで鮮やかでいて温かみのある青色を創り出しています。釉薬は柄杓を使って黒・白・青の順に手際よくかけていきます。
釉薬のかけ方によって味わい深い染分に。「まっすぐな直線で色を区切ると、あまりにも整いすぎたデザインで器が堅く見えてしまいます。微妙に色が重なる部分があることで、手仕事ならではの風合いが生まれます」
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5人で作業する工房内は整理整頓された、すっきりとした空間。確かな手仕事をめざす職人としてのこだわりが感じられます。「美しい手仕事には整えられた空間が必要だと思います。染分の揺れた線が活きるのは、美しいラインのボディがあってこそ。確かな技術があってこそ遊びの部分が活かされ、質のよい物を提供することができます」
暮らしの道具をつくる職人としての顔と、自身の美を探求する作家としての顔を持つ二刀流の坂本さん。“用の美”を追い求めた暮らしの道具は「日本民藝館賞」を受賞するなど評価され、作家としても「青瓷(せいじ)」を創り、国内最大規模の公募展・日本伝統工芸展で入選を重ね、日本工芸会賞も受賞しています。その原動力とは。
「目指して始めた仕事ではないのですが、修業を重ねて技術を身につけると良い物を創りたくなります。失敗を繰り返してもアップデートして次の自分を見てみたい。二刀流の大谷翔平選手の活躍に大きな刺激を受けています。民藝も伝統工芸も私の中では一本の道で繋がっていて、どちらも大切なもの。この両輪で親しい工芸と凄い工芸を盛り上げていきたいですね。今では、三代目としてこの仕事が大好きで誇りに思っていて、続けてこれたことに感謝しています」
盛り付けしやすい美しいフォルムに、独創性あふれる模様。全国に多くのファンを持つ岩井窯は、1971年に鳥取県岩美町に誕生しました。窯主の山本教行さんは、鳥取民藝の父と称される吉田璋也氏や民藝運動の中心メンバーであったバーナード・リーチ氏に出会い、陶芸の道へ。出西窯で4年間の修業を経て独立。以来、“自分が普段の暮らしの中で使いたい物”を創り続けています。
人気を誇る岩井窯の定番ライン。スリップウェアを山本さん流に昇華させた「象嵌(ぞうがん)」と李朝の掛け軸から着想を得た「掻落(かきおとし)牡丹柄」。丸皿と角皿がサイズ違いでそろい、どんな料理にも合わせやすい器です。
象嵌5寸皿(約15cm) 6,600円・角皿(大)7,700円/掻落牡丹柄4寸皿(約12cm)4,400円・角鉢11,000円
バーナード・リーチ氏のスリップウェアに刺激を受けて、自分が描きたい模様を表現した黄釉(きぐすり)掻落。温かみのある色合いにおおらかな模様が印象的。また、現代アートを彷彿とさせる絵柄は白掛線描赤絵。食卓にアクセントを加えたいときに重宝しそう。
黄釉掻落楕円皿6,600円・角皿(小)4,400円/白掛線描赤絵楕円小鉢4,400円・楕円皿7,700円
岩井窯の代表作品である土鍋は、メキシコの土鍋からインスピレーションを得たという独特のフォルムが特徴的。一般的な土鍋と異なり、伊賀産の天然陶土で作られ、ゆっくりと食材に熱が伝わることで料理の味が格別になるのだとか。
両手付平土鍋(小)33,000円
豊かな自然と穏やかな雰囲気に包まれた温泉街「岩井温泉」のほど近くに佇む岩井窯。「自分の夢を形にした」と山本さんが語る通り、「クラフト館 岩井窯」では器選びだけでなく、作品が生まれる工房の空気感や山本さんの美意識を五感で楽しむことができます(工房内は見学不可)。
「クラフト館 岩井窯」は3つの建物で構成されています。 「参考館」は、イギリスのスリップウェアや李朝時代の作品、アンティーク家具など世界から集めた約5,000点ものコレクションを収蔵・展示。山本さんのセンスを垣間見ることができます。また、「作品展示館」では多彩な作品を選ぶことができ、「喫茶HANA」では岩井窯の器を用いたランチやスイーツなどを堪能できます。
一般見学できない工房内を特別に見せていただくことに。岩井窯の代表的な掻落は、器の表面に重ねた白い化粧土を削って模様を描く技法。「デザインはある程度決めていますが、手仕事で描くのでひとつひとつ模様は微妙に異なります。使う方にとっては世界で1枚の器になりますし、なによりアドリブで描くのが楽しいんですよ。作り手が楽しまないと、いい物は生まれませんからね」
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民藝の先駆者たちに教えを受け、独創的なデザインを生み出す山本さん。物づくりへの姿勢をお聞きしました。「高校生の頃に吉田璋也先生のセンスや美意識に憧れ、自分も同じような暮らしがしたいと思いました。これが原点ですね。こんな器を日常生活で使いたいと思ったら、まず作ってみる。他人の評価を全く気にしないので、遠慮もなければ、怖さもありません。参考館のコレクションも、自分が理屈抜きでいいなと感じた物を集めただけ。そして、コレクションから多くの刺激を受けて、いろんな物を作ってきました。自分の生活を第一に、自分が楽しむことがなにより大切です」