2026.03.27 公開
Ceramic art
兵庫県丹波篠山市にアトリエを構える陶芸家の安藤 由香さん。凛とした佇まいや機能美とともに、自然の情景や陰影を取り込んだ器を生み出しています。安藤さんのアトリエを訪ね、作品の背景や作り手の想いなどをお聞きしました。

安藤 由香さんは、2023年に「VOGUE LIVING」ポーランド版において、次世代の日本人アーティスト11人の1人に選出。自然界の美しい情景を彷彿とさせる繊細な色彩と、洗練されたフォルムを併せ持つ作品を発表し続けています。


日常使いのものはプロダクトデザインの考え方でつくるという安藤さん。マグカップはミリ単位の調整を重ね、美しいラインと絶妙なサイズ感が特長です。半磁器のスマートな厚みによって、軽さと持ちやすさ、優しい口当たりといった機能性も秀逸。フォルムは台形と筒型の2種類をラインナップ。
マグカップ各6,600円


穏やかな空模様を投影したかのような繊細なペールトーンから陰影が愉しめる深い色合いまで、有機的な温かみのある色彩が大きな魅力。美しいカーブを持つボウルも、凛とした佇まいのリム皿も、盛り付けるのが楽しくなる逸品です。
ボウル38,500円/リム皿8,000円


静謐な佇まいの片口茶碗と一輪挿しは、愛らしいフォルムで飾るだけでも絵になる作品。鳥や犬など動物の身体が持つ可愛いらしい曲線など、日常で心惹かれた自然の造形が無意識のうちにモチーフになっているそうです。
片口茶碗38,500円/一輪挿し33,000円


グラデーションが印象的な一輪挿しと花器。安藤さんの代名詞とも言える、吸い込まれるような奥行きのある色合いが愉しめます。花器などの一点物は、色彩だけでなくオブジェとして飾りたくなる「造形」としての魅力を備えています。
一輪挿し27,500円/花器55,000円

美しく独創的な色彩や形状の作品が生まれる安藤さんのアトリエ。大きな窓からはたっぷりと陽光が差し込み、窓辺や庭には植物たちが潤いを与えてくれています。季節や時間帯で表情が移ろう空模様や、植物の葉が重なり合う姿など、自然の美しさが安藤さんの表現の源になっています。


安藤さんの制作は、まずはスケッチを描くところから始まります。「平面で真横から見たときの理想的なフォルムを描きます。ペンを走らせることでしか生まれないカーブとか、2次元でしか表現できない絶妙なラインがあるんです。フォルムを描いたら、そのイメージをろくろを回しながら立体的に落とし込み、ミリ単位で調整していきます」


さまざまな釉薬の原料と数え切れないほどの試作品があり、まるで釉薬の実験室のよう。「釉薬の配合によってどのような色合いになるか。こうした試作は、色へのこだわりがあるのはもちろんですが、単純に好きなんです。なんか違うなと思った色でも、時間が経つと『これもいいかも?』と変わることがあるし、ある程度は狙い通りの色を出せるのですが、想定外の色が生まれることもあるので、本当に楽しいですよ」


安藤さんの作品が持つ奥行きのある色彩は、どのようにして生まれるのでしょうか。「釉薬をスプレーで重ね掛けしています。3色ほどの釉薬を使い、重なり具合や厚みを調整することでグラデーションや深い奥行きを生み出すことができます。土については、最近は九谷の半磁器土を使っています。色が綺麗に出やすく、扱いやすさのバランスがちょうどいいんです」


ろくろの横にはインスピレーションを受けているという作品のポストカードも。「抽象画で知られる画家のアグネス・マーティンの作品に心惹かれます。一見シンプルですが、じっと見ないと分からないような繊細な表現に奥行きが感じられるんです。あと、美しい石ころを集めているのですが、色の層や質感がすごく魅力的で、こちらもインスピレーションのもとになっています」

アメリカに留学し、現地でそのまま就職したのち、陶芸家の道を志したというユニークな経歴を持つ安藤さん。陶芸家をめざしたきっかけとは。
「アメリカから帰省していたときに、友人に誘われて丹波立杭の郷を訪れたのですが、窯元が並ぶ美しい風景に心を打たれました。さらに、その時に買った作家ものの器にすごく感動して、私も陶芸家になろうと決意したのです。京都の職業訓練校を経て、丹波焼を代表する陶芸家 市野雅彦先生のもとで3年間修業しました。そのまま独立しようと思った矢先、東日本大震災が起きて、このまま陶芸を続けるのがよいのか悩んでしまって…。

半年間ほど陶芸以外のことをして過ごそうと思い、デンマークにワーキングホリデーで訪れました。滞在していたエコビレッジで物を大切に使う文化にふれ、『自分がつくったものも、こんな風に誰かが大切に使ってくれるのかもしれない』と考えたり、 自分がつくった小皿を現地の人にプレゼントしたら、想像以上に喜んでくれたり、少しずつ創作意欲が湧いてきたんです。そして、デンマークの学校でガラス制作を学んでいたときに、たまたま陶芸クラスでつくったマグカップが、見たこともない北欧らしい水色に仕上がって。日本に戻ってから『あの水色をもう一度つくりたい』と思ったのが、色の釉薬を使い始めたきっかけですね」

水色の再現から自然界の美しい情景を彷彿とさせる繊細な色彩へ昇華したのでしょうか。「夫の仕事の関係で富山県の氷見で暮らしていたとき、海の向こうに立山連峰が見える景色に感動しました。こうした自然の風景を見ながら色への探求心が芽生えていったと思います。淡い色合いは、『こういうものをつくりたいという憧れ』を表現した結果ですね。最近はもっと自分をさらけ出して、不安定な気持ちや悩みも作品に落とし込んでみようとした結果、奥行きのあるブラックなど、陰影や質感をより追求したダークなトーンの作品をつくるようになりました。ストイックに自分を追い込んでしまって半年ほど休んだ時期があったのですが、個展などのスケジュールに追われるのではなく、自分のペースで内面を反映させたものづくりを続けていきたいと今は考えています」
