2026.09.18 公開
Disaster prevention× Storage
もしもの備えは大切とわかっていても、「何から手をつければいいか」と悩む方は多いはず。防災収納インストラクターとして活躍する松永りえさんは、平成28年熊本地震の被災体験から気づいた「住まいの中の危険」と向き合い、防災と収納を掛け合わせた独自のアプローチを提唱しています。後編では、普段の暮らしを快適に、もしものときにも役立つ収納術を教えていただきました。
松永りえさん
熊本在住の防災収納インストラクター・整理収納コンサルタント。2016年の熊本地震での被災を機に「快適な暮らしは安全の上にこそ成り立つ」と実感し、防災収納を提唱。テレビ・講演・執筆など幅広く活動し、著書に『地震に強い収納のきほん(扶桑社)』『もしもに役立つ、いつものモノ選び 防災グッズは備えず使う!(エムディエヌコーポレーション)』などがある。

― 防災対策と整理収納。なかなか手がつけらない場合、どこから始めればよいでしょうか?
「防災収納は、片付け→安全対策→備蓄の3ステップでお伝えしています。多くの人は最後の備蓄に目が行きがちで、備蓄を置く場所がないという声をよく聞きます。備蓄スペースをつくる片付けから始めれば、安全対策も最低限で済みます。第一歩は不用品を捨て、片付けること。たとえば、床に置きっぱなしの不用品を一つ捨てるだけで、それにつまずくのを防ぐことができ、安全・防災につながります」

― 防災にもつながる片付けとはいったいどんなことをやるのでしょうか?
「一般的な整理収納と違いはありません。まずは『いる物・いらない物』を分け、家に合わせた適正量に物を減らしていきます。そして、いる物は使いやすく収納し、落ちない・倒れない・移動しないように安全対策を行います。物を減らしたことで備蓄スペースも生まれます。この形ができれば、物を使ったら元の場所にしまうことを習慣にし、キープするだけです」

― 松永さんのご自宅は決して物がないわけではなく、インテリアなども楽しみながら対策されている印象を受けました。
「高い所に落ちそうな物を置かない、割れる物を置かない。これらに注意すれば、好きなインテリアを楽しみながら安全な暮らしは叶います。私は北欧雑貨が好きで、観葉植物も置いています。陶器など割れやすい素材は、落下や転倒を防ぐ固定テープを活用し、万一落下しても危なくない場所で、お気に入りの雑貨を飾っています」

「必要なときに必要なものがさっと出せる。日常生活で便利なだけでなく、もしものときの安全にもつながります。緊急時は、探しものをする時間はなく、わずかな時間が命取りになることもあります。まずは不要な物を減らすことが大切。わが家のリビング・ダイニングの収納は、15分でリセットできることを意識しています。そのために、家族それぞれ自分の物は自分の部屋にしまうのが原則。リビング・ダイニングは、仕事・家族用とスペースを分けて管理し、なにをどこにしまうのかを明確にし、物が散乱しないように気をつけています。ペットのスペースもテレビボード横の棚にすっきりと確保し、地震発生時のつまずき防止を考慮しています」

「キッチンに限らず、『重心を低く』が防災収納の基本です。キッチンボードの一番下には大きな皿や料理本など重量のあるものを入れ、全体のバランスを安定させています。重い物は下、使う頻度が高い物は手が届く高さに、という収納のセオリー通り。また、食器棚は一定の揺れを検知すると自動で棚にロックがかかる『耐震ラッチ』付きを選んでいます」

「キッチンボードの棚には、よく使う軽い物をまとめてボックスに収納。奥の物でもボックスごと取り出せて使いやすく、そのまま持ち運びもできるので、片付けも簡単で、出しっぱなしの防止につながります。ボックスに入れることで奥までムダなく収納でき、地震の際に棚の中で物が動いて割れるのも防げます。また、割れやすいコップは、滑り止めシートを敷いたケースに入れて二重で対策。万が一ケースごと落ちても、破片の散乱を防ぎます」

「地震で揺れたときに食器同士がぶつかり、割れてしまうことも。同じ種類を重ねて収納すると地震でも割れにくく、出し入れもスムーズです。2016年の熊本地震では、引き出しの下に滑り止めシートを敷き、スペースにゆとりを持ってしまっていたおかげで、地震の揺れで引き出しが飛び出しても食器は割れずに済みました」

「冷蔵庫内も地震の揺れで物が動かないよう、ボックスに入れて収納しています。奥の物が取り出しやすく、日常的にも便利。万一落下して割れたり、中身が漏れても片付けが楽になります。割れる可能性のあるガラス製の容器はできるだけ落下しにくいドアポケットにしまっています」

「避難経路となる廊下には物を滞留させないのが基本ですが、日常生活では外出時によく使うものは玄関までの動線上にあると便利ですね。無印良品の『壁に付けられる家具』のハンガータイプは、バッグや帽子などをかけることができ、使わないときはフックを収納できます。工具不要で好きな場所に設置でき、荷物の床置きを防ぎ、防災と生活のしやすさを両立できるアイテムです」

「避難時に必要な防災リュックとヘルメットは玄関のシューズボックスに収納しています。防災リュックは、1〜2日生き延びるために必要な物を入れ、中身は年2回程度チェックし、水や食料の賞味期限を確認し、夏の暑さ対策グッズや冬の防寒グッズも季節ごとに入れ替えています。また、ヘルメットは、コンパクトに収納できる折りたたみ式にしています」
― 水や食料の備蓄として、「ローリングストック」と呼ばれる方法がよく知られています。普段から慣れ親しんだ食品や日用品を少し多めに購入し、使った分だけ買い足して、常に一定量をストックしておく方法です。松永さんはどのように備蓄されているのでしょうか。

「2016年の熊本地震で断水を経験し、水が底をつく不安や恐怖は想像以上でした。本当に水のストックは大事です。大人1人1日3Lを目安に、家族の人数×最低1週間分を備蓄しましょう。避難時は2Lペットボトルだと大きすぎて飲みづらく、500mlサイズもあると便利です。災害専用の長期保存水はクローゼットの中にしまい、普段口にする飲料はリビングに収納し、ローリングストックを活用しています」

「ライフラインが停まった被災生活で欠かせないのが水を運ぶポリタンクです。被災地では品切れになり、『2Lサイズのペットボトルで何往復もした』『運ぶ台車もなかった』という声を聞きます。水のストックだけでなく、水を運ぶ手段も考えておきたいですね。また、ウェットティッシュもストックがあると水を使わずに済み、除菌効果のあるものは感染症対策にもなります。水不要で使えるものも備えておきましょう」


「食料をローリングストックで備蓄する際に大切なポイントは、『適正量の把握』と『賞味期限の管理』。適正量は各家庭で異なりますが、賞味期限を切らしがちな場合はストック量が多すぎ、すぐにストックがなくなる場合は量が少なすぎることが考えられます。賞味期限の管理は、頻度と賞味期限に応じて分散収納するのがおすすめです。使用頻度が高い物はキッチンに近い場所へ。わが家はリビングに収納しています。使用頻度が低い物や非常食、賞味期限の長い物は寝室のベッド下などにしまっています。また、収納時はジャンルごとにボックスへ縦置きすると在庫がひと目でわかり、浅めのボックスなら取り出しも簡単。補充の際は新しいものを奥に入れ、手前から使うことで自然と古いものから消費できます。期限間近の物を食べる日を定期的につくれば、フードロス防止にもつながります」

― 災害の備えには状況によって4つの段階があり、それぞれ役割が異なると松永さんは話します。
「被災された方から『用意していた防災リュックが役に立たなかった』『避難所に十分な備えがあると思っていた』という声もあるため、それぞれの段階で必要なものをしっかり準備しておくことが大切です」

外出先で災害に遭ったとき、自宅や避難所まで安全に移動するために必要なものを「防災ポーチ」にまとめて、バッグの中に入れておきます。中身はトイレ用ウエットシート、携帯トイレ、レインコート、ホイッスル&ライト、マスク、携行食、小銭など。持ち運びしやすいよう全体的に軽くコンパクトにすることがポイント。撥水素材の防災風呂敷は、雨よけや防寒対策、敷物のほかに、バッグにすれば水を運ぶこともでき、おすすめです。

緊急時にすぐに持ち出せるように用意しておく「防災リュック」。水と食料、衛生品、ラジオなど発災から1〜2日を生き抜くために必要な最低限のものを用意しておきます。ホイッスルや防犯ブザーも忘れずに。重すぎると逃げ遅れたり、体を痛めたりする危険があるので、スムーズに動ける重量に抑えましょう。基本的に1人1つ用意します。
発災から1週間生き抜く「備蓄」。身の安全がとりあえず確認でき、支援物資が届くまでの生活をつなぐための備えです。水や食料のほか、カセットコンロ、カセットボンベ、発熱剤など簡易調理器具があると温かな食事が可能に。また、ドライシャンプーや簡易トイレなど断水時でもできるだけ清潔な状態を保てる備えが大切。
長引く被災生活を少しでも快適に過ごすための備え。ペットがいるわが家は、在宅避難かテント生活を想定して、趣味のキャンプセットを「3次」の備えにしています。被災生活をどう過ごすか想像して、必要なものを備えましょう。

ムリなく楽しく続けられる“もしもの備え”に着目。キャンプの知識や経験を活かした「ながら防災」を提唱するCAMMOCの代表 マミさんにお話をうかがいました。

実用性があり、見た目も良く、家に置いておきたくなる防災グッズを、雑貨コーディネーターのオモムロニ。さんに教えてもらいました。非常時はもちろん、日常でも使えるフェーズフリーなアイテムをご紹介。