2025.05.23 公開
Flowers in your life
好きという気持ちを素直に表現し、素敵に花を飾る市村美佳子さん。自身の感性を大事に、自分らしい暮らしや住まいをつくる市村さんのアトリエとライフスタイルをご紹介します。
市村美佳子さん
フラワーデザイナー、株式会社 緑の居場所 代表取締役
イギリスでフラワーアレンジメントを学び、現在は東京・南青山のアトリエで花教室を主宰するほか、ファッション&ライフスタイルブランドのイベント花装飾を手がける。エプロン好きが高じて、デザイン事務所代表の滝本玲子氏と「エプロン商会」を設立。
— フラワーデザインの世界にも流行はあるのでしょうか?
「花にもトレンドがありますよ。ファッションと同じように時代の影響を受けやすいですね。たとえば、バブルの時代にはシックで枯れたような花が流行しました。華やかで浮かれた時代だからこそ、どこか退廃的な美しさが求められたのかもしれません。
また、トレンドは東日本大震災をきっかけに一変したようにも感じます。人々が命の危機を経験したことで、くすんだ花よりも、明るく健やかな色の花が好まれるようになりました。元気な色や美しい色の花からエネルギーをもらいたいという気持ちが強くなったのでしょう」
— ご自身のお部屋に花を飾るときに意識されていることは?
「花の品種改良がすごく進み、どんどん新しい花が生まれてきました。ただ、バブルの時代は珍しいものが重宝され、時には美しいのか不気味なのか判断がつかない花も…。ちょっと嫌な傾向だなと感じていました。そして、母に贈る花を選ぶときに、無意識のうちに黒い花やくすんだものではなく、明るく元気な色の花を選んでいる自分に気づきました。
農薬の影響で体調を崩したこともあって原種系の花やオーガニックに興味を持つようにも。こうした経験からできるだけ健やかなエネルギーを持つ花を選ぶようにしています。特に家に飾る場合は、花の持つエネルギーを感じながら、自然に楽しむのが今の時代にも合っていると思います」
— 黄色の壁が印象的な市村さんのアトリエ。お気に入りのポイントをお聞きしました。
「ここは賃貸物件なので最初はリフォームがダメだったのですが、途中でOKになったのでこの部屋の壁は黄色にしました。黄色は『魔法の色』だと思います。特に山吹色を取り入れると、さまざまな色がまとまりやすくなるんです。色というより、光の効果かもしれませんね。この壁の前に置くものは、どれも可愛く見えるので、教室を開いた際にはみなさんがここで写真を撮って楽しんでいますよ。
家具について、すべてがこだわりのアイテムというわけではありません。でも、黄色の壁に沿って自分が好きなものを飾っていて、ここはとても楽しい空間です。たとえば、江戸時代の骨董品の箪笥やヨーロッパのアンティーク家具はお気に入りの一つです」
— 住まいやインテリアでどんな点にこだわりがありますか?
「やっぱり自分が『気持ちいい』と感じること。それが一番大切ですね。たとえば、ここを選んだときも広さは大事だけど、それより朝日が入る場所が絶対条件でした。あとは土地の持つ雰囲気が自分に合っているとか、心地よさを優先することが大切だと思います。
葉山で家を借りて2拠点での生活を始めたときに、買い足したものはあまりなかったです。どうしても欲しくて買ったけど全然使っていなかった布がいっぱいあって、「これ、いつ使えるんだろう?」と思っていたのがカーテンになったり。持っているものを活かして、新たな使い方を見つけるのが楽しいんですよね」
「模様替えをすることはなく、持っている絵を季節ごとに入れ替えることもないですね。ただ、花瓶はたくさんあるので、その時々で入れ替えます。花を生けることで自然と季節感が出るので、それが空間の変化になっているのかもしれません。暮らしながら、より心地よくなるように工夫し続けていて、そのこと自体を楽しんでいます」
— 天井に吊り下げられた「かご」がとても印象的ですが、インテリアとして飾っているものですか?
「かごが好きで、どこかへ行って見つけると、つい買ってしまうんですよね。収納場所がないのに増えてしまい、どうしようかと悩んだ結果、『掛けてしまおう』と思いつき、天井に近い壁に掛けることにしました。
かごは、教室で使うこともあります。国や地域によって形や素材、編み方が異なり、用途に合わせたデザインの違いが面白いですね。柳行李も大好きでいっぱいありますよ」
— テイストの異なるたくさんの物に囲まれながらも、雑然とした感じがしないのが不思議です。片づけや収納のマイルールがあるのでしょうか?
「普段は作業で部屋が散らかることも多いですが、散らかったままだと気持ちが沈んでしまうので、『もう仕方ない、片づけよう、掃除しよう』と思い立って動きます。部屋がすっきりしたら気持ちいいですよね。
収納については、“隠す”という発想があまりありません。『生活感がなくて素敵』というのに違和感があって。生活自体が楽しいものなのに、それを隠す必要があるのかなと。それに、隠してしまうと使いづらくなってしまいます。
私は、カオスな空間が好きですが、自分にとって心地よいカオスと、ただ散らかって荒れた状態のカオスがあると思っています。場が乱れている感じがするのは、やっぱり嫌ですね」
— 物を買うときはどんな基準で選んでいるのですか?
「若い頃は、かわいいと思ったものはすべて欲しくなりました。でも、たくさんのものを見たり買ったりしているうちに、『家のどこに置けるか』『自分の空間に合うか』を考えるようになりました。使う場所がなければ、買わないことが多いですね。
ただ、どうしても惹かれるものは、買ったほうがいいと思います。使い道は分からなくても、強く惹かれるものは、後になって何かの役に立つことがあるかもしれません。私は、こういう直感や感覚は抑えつけないほうがいいと思っています」
— 自身の感覚を大事にしようと思ったきっかけがあるのですか?
「思考より感覚が先にいく。それで悩んだ時期もありましたが、それが自分のやり方なんだと気づき、『できないことを無理に変えなくてもいい』と思えるようになりました。
フラワーデザインの仕事でも、これという色がないのがずっとコンプレックスだったんです。野の花もゴージャスな花もポップな花も好き。ここの家具も同じで、テイストがひとつじゃないんですね。自分が『好き』と思うものを選び抜いているのは確かなのですが」
「ある花瓶の展示会で『こんなにテイストがめちゃくちゃで大丈夫なのか?』という不安にかられたときがあって。広い展示スペースでテイストごとに分けるなど工夫を凝らした結果、多くの人がそれぞれ自分の好きな花瓶を見つけて買ってくれました。そのとき、『私はこれでいいんだ』と初めて思えたんです。むしろ、こんなに幅広いテイストを集められることこそが私の強みだと気づきました。
自分一人ではその確信を持てなかったと思います。展示会という場で自分のスタイルをさらけ出し、多くの人に受け入れてもらえたことで、『これで大丈夫なんだ』と思えました。私にとって本当に貴重な経験でしたね。それからは、花瓶に関しては『好きなものを好きなだけ集めよう』と思えるようになりました」