Living in France

ムリをしないで、自分や家族に合った
心地よい暮らしを

浪費を改め、完璧主義から無理をしない暮らしへ。 「フランスでやめたこと」をテーマに発信するロッコさんの言葉や取り組みには、暮らしを身軽にするヒントがたくさん詰まっています。「やめる」「手放す」に至った経緯や現在の暮らしぶりを通じて、自分や家族に合った心地よい暮らしを見つめ直してみませんか。

ロッコさん

フランス地方都市リヨン在住のデジタルクリエーター。フランス人の夫、3人の子どもと5人暮らし。「フランスでやめたこと」をテーマにInstagramやVoicyなどSNSで等身大のフランス生活を発信中。著書に『フランスでやめた100のこと』(大和出版)、24年7月に新刊『フランス人に学んだ本当の感性の磨き方』を発売。

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フランスでの心豊かな暮らし

海外生活は18年目。なぜリヨンに?

イギリスやスロベニアでの滞在を経て、2017年よりフランスのリヨンで暮らすロッコさん。海外での生活は18年目を迎えます。「高校生のときから英語を勉強し、卒業後はロンドンの大学で写真を学びました。その後、母の看病のためにしばらく日本に戻り、少しでも治療の役に立てたらと栄養士の資格を取得しました。そして、母の病気が治った頃、たまたまフランスでの栄養指導の仕事を紹介されて渡仏することに。マルセイユで夫に出会い、結婚後は日本で5年間過ごしましたが、子育て環境を求めてリヨンに移り住み、現在に至っています」

フランスでの暮らしで驚いたこと

フランスでの暮らしで驚くことがたくさんあるそうです。「8年住んでもまだまだ驚くことはいっぱいあります。なかでも、一番はフランスの教育ですね。小さな子どもに対しても、一人ひとりの意見が尊重され、自分の意見を自信を持って言えるように教えられています。あと、フランスではレジ袋の使用が禁止されており、マイバッグの利用が当たり前になっていること。プラスチック製品の販売も規制されており、環境に配慮した生活スタイルが浸透しています」

お金を使わずにストレスを発散

「環境への配慮にもつながっていることなのですが、フランス人はすごく物を大切にします。自然環境を守ろうという意識が強いのも、日頃から自然に癒やされたり、その恩恵を日々感じているからだと思います。たとえば、ストレス解消法も日本だとお金を使って発散することがありますよね。でも、フランスではお金を使わずに、ただ自然に身を置き、なにもせず、リラックスした時間を過ごすことが多いです」


「やめる」「手放す」でラクに生きる

思い込みや当たり前を手放してみる

仕事や家事は完璧にこなさないといけないと思い込んでいたロッコさんは、移住してから考え方がすっかり変わったと話します。「フランスでは、日本のようにサービスが行き届いていないので、都会のパリですら少し不便に感じることはありますが、それでもフランスの人はあまり気にしていません。洋服など見た目にあまりこだわらない人が多く、ムリに飾ろうとしないんです。

夫の母はとても豪快な人で、食事をつくってもらっても、皮を剥いて切ったニンジンを出されたり(笑)。そういうのを見ていると、だんだん完璧でなくていいんだと思えるようになり、“毎日ちゃんと食事をつくらなきゃいけない”といった思い込みや当たり前と考えていたことを手放して、“できないときもある!”とポジティブに捉えられるようになりました」

手放したあとの心地よい暮らしを考えて

「倹約家の夫と結婚したことで浪費癖はなくなりました。物への執着心が弱まり、持ち物を整理しようとしたら夫にいわれたことがあるんです。『捨てるのはいいけど、無機質な空間にはしたくない。そこに住んでる人がどういう人なのかっていうのがわかるような、そういう空間を2人でつくっていきたい』と。

たしかに、フランスの家庭はどの家に行っても、住んでいる人の個性が表現されていて本当に素敵なんです。『やめる』『手放す』といっても、シンプルに削ぎ落とすという意味ではなく、物を手放したあとの生活の在り方を家族で一緒に考え、物を大切にしながら心地よく暮らせることを心がけています」

自分の意思・意見を明確に

「浪費家だったときは買い物でストレス発散して、あとから『これってなんで買ったんだろう?』と振り返っても答えが出てこない。フランス人とおしゃべりしていても、みんなは小さな頃から自分の意見を話すように教育されているのでしっかり意見を言いますが、私だけ自分の意見が言えない。

つまり、自分の意思や意見が自分の中で明確ではなかったんですね。こうした気づきがあって、今は自分はなにが好き?なにがしたい?ということを自分の中で考え、対話できるようになりました」


フランス流のポジティブな子育て

「フランスのパパ・ママの子育てを見ていてすごくいいなと思うのは、できないできないってネガティブにならないこと。たとえば、夕食をつくる時間も材料もないときは、日本だと悲観しがちですよね。でも、フランスでは食事がつくれないなら、『今日は特別!』ってお祭りみたいな感じでピザを注文するんです。大人は楽だし、子どもも楽しい。こうしたポジティブな気持ちを持って家事や育児をしているのは、素敵なことだと感じます」


暮らしを身軽にしたり、豊かにするヒント

家事|映える食卓をやめる

「雑誌やSNSで彩り豊かな食卓の写真を見ると、それに比べてわが家の食卓は…と落ち込んでしまうことも。でも、わが家の普段の食卓は誰かに見せるものではなく、家族の食事ですよね。見せるために必要以上にがんばらなくてもいいのでは。

その点、フランスの平日の食事は、とても質素です。つくるのはスープだけで、足りなければパンやチーズを食べるということはよくあります。時間がなければ、パンにハムや野菜をのせるだけ。逆に親戚や友人を招くときには腕をふるったり、高級なワインをそろえたり、メリハリが効いています」

家事|ドレッシングを買わない

「日本では美味しいドレッシングがスーパーなどでもたくさんそろっていて、選ぶのが楽しいですね。私も日本で暮らしていたときは、いろいろなドレッシングをそろえていました。フランスに来て驚いたのが、20代の若い人も90代の年配の方も、みんなそれぞれ自分のドレッシングのレシピを持っていること。

これだけ物があふれている時代だからこそ、逆に手作りは新鮮。自分で手作りすれば添加物もコントロールできるので、身体にもやさしいですよね。子どもと一緒に科学実験のように新しいレシピづくりに挑戦すれば、食育にもつながります」

自分|コンプレックスを隠すのをやめる

「洋服を着るときに、自分のなで肩が気になっていたんです。ワンピースの肩紐やトートバッグの持ち手が肩からズルズル落ちてきて…。移住してからさらに自分の体型にコンプレックスを感じるようにも。こちらの既製品の服は、足の長さが違うし、全然体型に合わないんです。

ところが、着物を着るようになって、コンプレックスに感じていた体型が強みに変わりました。日本人の体型には着物がやはり合うんですね。隠したいと思っていたコンプレックスも、ちょっとしたことで自信に変わるので、あまり悲観しなくてもいいと思います」

自分|便利を追求しない

「24時間いつでもコンビニで買い物できたり、電車は時間通りに運行している。海外で生活すると、いかに日本が便利な国であるか実感できますが、便利=生きやすいとは限らないと感じています。便利さを追求すると、完璧であることが求められますよね。不確実なものは便利ではありませんから、提供する側はプレッシャーを感じることもあるでしょう。

フランス人の知り合いが日本を訪れると、『日本で働いている人は大丈夫なの?』と心配する声をよく聞きます。それくらいプレッシャーにさらされて生きているように見えるのかもしれませんね。私は、フランス人と同じように少しくらい不便でも、完璧を求めることなく、おおらかに自分らしく暮らせる環境がいいですね」

家族|親と同じことをするのをやめる

「自分が母親にしてもらったことを、自分の子どもたちにもやらなければいけないと、無意識のうちにがんばっていたところがありました。そう気づかされたのも夫の母。義母の母はとても料理が大好きでずっとキッチンに立っていたそうですが、義母は『そんなの私にはムリ』と言い切っています。

母から受け継いだものは大切にしながら、合理的な考えも柔軟に取り入れていく。特に、専業主婦が多かった昭和と比べて、共働きが多い今の時代にあわせて、自分らしい子育てができればと思います。そのためにも、自分の意思・意見をしっかり持つことが大切です」

家族|相手を変えようとしない

「家族やパートナーに、『こうしてほしい』というときがありますよね。相手を変えようとしてもうまくいかず、ストレスが溜まるばかり。私も夫のファッションに無頓着なところが気になって、一生懸命変えようとしましたが、夫は全く動じません。ある日、子どもが学校から借りてきたイソップ寓話の『北風と太陽』のなかに、相手を思いやる気持ちがあれば、相手も心を開いてくれると書いてあり、ハッとしました。それからは、夫の服装を『個性』と捉えてなにも言わないようにしたら、私のストレスは消え、夫からアドバイスを求められるようになりました」


もっと身軽になるために

「『やめる』『手放す』を実践する上でとても大切な自分の意思・意見。これを明確にするためにアウトプットすることが必要です。たとえば、日々の生活のなかでちょっとした違和感を覚えたこと、気になったことをノートに書き留めておく。あとで読み返して、なんでそう感じたのか、そもそも自分にとって必要なことなのか、など客観視しながら自分の中で対話が生まれます。自分や家族に合った心地よい暮らしの本質を考えやすくなりますよ」