Flowers in your life

暮らしや気持ちに華を。
花を飾る愉しみをご紹介

いきいきと咲き誇る花を部屋に飾ってみると、住まいに彩りが添えられるだけでなく、気持ちまで華やかになることも。そんな花を飾る愉しみを、フラワーデザイナーとして活躍する市村美佳子さんに教えていただきました。

市村美佳子さん

フラワーデザイナー、株式会社 緑の居場所 代表取締役
イギリスでフラワーアレンジメントを学び、現在は東京・南青山のアトリエで花教室を主宰するほか、ファッション&ライフスタイルブランドのイベント花装飾を手がける。エプロン好きが高じて、デザイン事務所代表の滝本玲子氏と「エプロン商会」を設立。

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花の魅力とは

花に魅了されたきっかけ

— 市村さんが花に魅了され、フラワーデザイナーとして歩んだきっかけを教えてください。

「私の母が花が大好きで、毎日家中に花を飾っていました。台所で花を生け変える様子が“まるで魔法のよう”に見えて、とても楽しかったのを覚えています。

大学卒業後、ロイヤルコペンハーゲンに就職し、店舗で接客しながらディスプレイの仕事も任され、花を飾るようになりました。そこで、花の教室に通い始めましたのですが、その教室の先生の花が大好きになり、『先生のような仕事がしたい』と思うようになったのがきっかけですね」

花が持つ特別な力

— 市村さんが感じる花の魅力とはどんなものでしょうか?

「初めて東京で一人暮らしを始めたときに、寂しさからホームシックになりました。母に電話をすると、『花でも買って飾りなさい』と言われました。実際に花を飾ると、不思議と寂しさが和らいだんです。切り花には、一瞬にして人の心の深いところに届く力があると感じています。それは同じ花でも、根付きの花にはない特別な力だと思います」

「それを実感したのは、千葉の外房にある長い間、放置されていた古民家で金継ぎ師の黒田雪子さんと2人展をやった時ですね。切り花を生けた途端に、少し怖かった古民家の内部が優しく心地よい空間に一変したときは、びっくりしました。

また、知人が教えてくれた『元気のない友人にヒマワリの花束を贈ったら、号泣して喜んでくれた』というお話も印象的でした。特別な日でもなく、彼女の大好物を贈ったわけでもないのに、花にはそれほど強く人の心に響く力があるのです」


花を飾る前に知っておきたいこと

お気に入りの花瓶を見つける

— 部屋に素敵な花を飾りたいと思ったときに、何から始めたらいいですか?

「花を飾るなら、まずはお気に入りの花瓶を見つけることをおすすめします。『どんな花にも合わせやすい』と、筒型のシンプルなガラスの花瓶を選ぶ方が多いと思いますが、実はこうした花瓶はすごく難易度が高いです。花を生けても花瓶は何もしてくれないので、花の分量もセンスも技術も必要となります。

ただ花を差し入れるだけで、どんな花も生き生きさせる『力のある花瓶』というものがあります。たとえば、彩り豊かなラナンキュラスに個性的な花瓶を合わせても、互いの良さを引き出し合ってくれます。そんな存在感がある、お気に入りの花瓶がひとつあるだけで、花を手軽に飾ることができますよ」

花瓶選びは高さと口の形が大事

— 花瓶を選ぶときの注意点はありますか?

「花を生けやすい花瓶のサイズは、高さ17〜18センチがおすすめです。背が高いとチューリップやバラなどが沈んでしまい、しっくりこないことがあります。また、花瓶の口の形も重要なポイントです。口がまっすぐ立ち上がっていると花が広がりにくくなるため、少しカーブがある方が生けやすいですね。

シンプルなデザインが好きな方、和風の落ち着いたものが好きな方など、それぞれの好みもありますが、サイズ感と口の形を意識するだけで花がより映えるようになります」

「あと、水差しなどの本来は花瓶ではないものを使うのもOKですが、お皿などの浅い器は難易度が高く、花を生けるのが大変になります。水をしっかり入れられる程度の深さがある方が、生けるのも楽で花も長持ちしやすいですね」

市村さんが好きな花瓶は?

— 不定期で花瓶専門店という販売イベントを行う市村さんのアトリエには数え切れないほどの花瓶がありますが、どんなものがお好みですか?

「私は和物も洋物も、派手なものもシックなものも好きで、テイストがばらばらです。アンティークも好きですが、新しい作家の作品も好きで、特にこだわりはありません。ヨーロッパでアンティークを探すときも、先入観をなくし、自分が反応するものを選ぶようにしています。思いもよらぬものに反応したときは自分でもびっくりします。

なぜこれが好きなのか、最初は分からないこともありますが、実際に使ったり展示したりすると、意外な発見があります。自分の知らない世界にふれることで、新しい好みに気づいたり、逆にもう興味のないものが分かったりする。そのプロセスがとてもエキサイティングなんです」


暮らしに花を取り入れて

花選びはもっと気軽に

— 飾る花を選ぶときのセオリーがあるのですか?

「家に飾る花にセオリーはありません。それは『今日何を食べたいか』と同じで、気分や季節、体調によって選べばいいのです。日本は生け花の文化があるため、「これでいいの?」と考えがちですが、花選びに正解はありません。最初から完璧を目指さず、無理せず、手軽に始めればいいと思います。

花屋さんで直感的に『これが好き』と思うものを1本買うことから始めれば大丈夫。ちゃんとした花瓶があれば1本だけでも様になります。もうちょっとあったほうが楽しいかもって思えたら、ちょっとずつ増やしていけばいいんです」

まずは1輪を飾るところから

デンマークの歴史あるガラスブランド「ホルムガード」の花瓶※に、淡いピンクのバラ「ショコラロマンティカ」を市村さんに生けてもらいました。「ポイントは花を真正面ではなく、左右どちらかに少しずらして生けること。棚やテーブルに置くなら、人の目線に合うように花の高さや向き、角度を決めていきます。茎や枝を少しずつ切って様子を見ながら調整しましょう」

※花瓶は現行品ではありません。

複数本を飾るならリズミカルに

「複数の花を生けるときは、花が生き生きと見えるようにリズミカルな動きをつくることが大切。茎の長さ・花の向き・角度・花と花の間隔をそれぞれバラバラに変えて差していくのがポイントです。花が真正面と真横に来ないようにしながら、空いているスペースを埋めるように差していきます」

色のコントラストで変化をつける

「花の種類を増やす場合は、色のコントラストで動きをつくることもできます。たとえば、同じオレンジでも明るさや鮮やかさの異なるものを組み合わせ、さらに変化がつくように濃い目のエンジ色を用いるなど、同系色と異なる色合いをうまく使っていきます。複数の色を組み合わせるときは黄色の花を入れると、全体がまとまりやすくなります」

大きさの違いや形で動きをつくる

「花の種類を増やす場合にもうひとつ、大きさの違いや形で動きをつくることもできます。たとえば、同じ紫の同系色で濃淡や形が違うものを組み合わせます。大小がはっきり違う花を選ぶと、より動きをつくりやすくなります」


花が健やかに過ごせるために

— 花を長持ちさせるために、どんなことに注意したらいいですか?

「置き場所と水の管理が大切です。風が当たる場所では水分が蒸発しやすく、花がしおれてしまうため、クーラーや隙間風が直接当たらない場所に置くのが理想的です。夏の強い直射日光も避けましょう。

また、水は清潔に保ちたいですね。水が汚れるとバクテリアが増え、花の水を吸う管が詰まってしまいます。葉が水に浸ると傷みやすく汚れの原因になるため、花を生けるときは水に浸る葉は取り除いておきます。水道水のカルキはバクテリア繁殖を防ぐため、抜かない方が良いですね。

水換えのタイミングは、季節や花の種類によって違ってくるので、花の様子を見ながらできるだけ頻繁に水換えをしてあげた方が、花は長持ちします」


後編では素敵なアトリエのインテリアなどをご紹介。5月下旬に公開予定