Ceramic art
「世界一美しい民窯」ともいわれる小鹿田焼(おんたやき)。大分・日田市の里山で昔ながらの製法と一子相伝の伝統を守りながら作陶されています。後編となる今回は、注目の若手作陶家 坂本創さんをご紹介。
父の工(たくみ)さんと共に坂本工窯で焼き物づくりを行う坂本創さん。有名スポーツブランドとのコラボがメディアで取り上げられ、個展を開けば多くのファンが訪れるほどの人気ぶり。新進気鋭の若手作陶家として注目されています。
300年以上の歴史を持つ小鹿田焼の中でも異彩を放つ創さんの活動は、鳥取での修業が大きく影響しているのだとか。「全国に多くのファンを持つ岩井窯の山本教行さんのもとで、高校卒業してから2年ほどお世話になりました。すごく楽しくて、刺激的な毎日でしたね。昔のよい器とかを集めているだけでなく、家具や洋服、車、音楽などにもこだわりを持って、自分がつくりたいものを追求している。そんな師匠の生き様や暮らしぶりにすっかり魅了されました。
民藝の流れをくみながらご自身の名前で個展を開いていて、いつか自分もそんな風にできたらいいなと思っていたんです。その矢先、修業を終えて小鹿田に戻ってくるときに、神戸で個展の誘いをいただき、以来ずっと国内各地で個展を開くようになりました。師匠や坂本工窯の名に恥じない仕事をしなくちゃいけないという重圧はありながら、個展に出す作品は時間をかけてつくれるので、自分のスタイルに合っているんですよね」
創さんの青みがかったグレーが印象的な「飛び鉋(とびかんな)」の平皿。「刷毛目(はけめ)」は化粧土を多く塗り、刷毛のピッチを狭めることで独特の趣に。どちらも小鹿田焼の代表的な技法をもとにしながら、個性を醸し出しています。
飛び鉋5寸皿(約15cm)2,200円/刷毛目7寸皿(約21cm)3,850円
白と黒のコントラストが特徴的な皿とピッチャーは、モノトーンの落ち着いた色合いながら存在感ある一品。平皿は、小鹿田の黒土に鉄釉をかけることで黒を強調。ピッチャーは小鹿田焼の代表的な技法「指描き」で、躍動感のある文様が描かれています。
7寸皿(約21cm)3,850円/ピッチャー8,800円
岩井窯の山本教行さんの影響を色濃く受けたというマグカップは、温かみのある装飾と色合いで湯呑みのような心和むデザイン。もうひとつのマグカップは、地肌に鉄釉をかけ、筆と櫛で模様を描き、さらに釉薬を重ねるなど手間暇かけた逸品。今にも動きだしそうな模様は創さんの作風のひとつ。
マグカップいずれも3,960円
地元で採取された原土を粉砕する坂本工窯の唐臼。機械を使わず、自然のものだけでつくるというのがいかに特殊なことか、創さんは鳥取で修業して改めて気付かされたそうです。「一般的な窯元と比べたら考えられないくらい大変なことを集団でずっとやり続けている。効率が重視される現代だと、この特殊性はより際立ちますよね。
こうした小鹿田の歴史や製法を見て共感し、買ってくださる方もいると思うし、ここに小鹿田の価値があるんじゃないかと。だから、天然の物しか使わない、土も混ぜない、窯も登りしかやらない。その中でできることを考えます。なぜ?と聞かれると、やっぱりここで生きているからというのがありますね」
自然と人の手で生み出される小鹿田焼。創さんにとって数ある工程の中で最も重要なものとは?「プロである以上ろくろの腕は必要ですが、数をこなせばいいわけではなく、自分にとって理想を意識しながらつくった数が大事じゃないかと。飛び鉋や刷毛目は、手仕事の量産には向いている装飾です。でも、僕は釉薬を何度も何度も重ねるとか、面倒で誰もやらないことをやるほうが好きなんですよ。
土や釉薬に制約がある分、やることが絞られているのも変な迷いが生まれず、かえって良いことかな。とはいえ、300年の長い歴史がある小鹿田焼の技法は分解するとあらゆることをやっていて、一生かかっても研究尽くせないほどです」
赤髪という見た目と独創性あふれる作風で、異彩を放ちながらも、小鹿田焼への想いと誇りを強く持つ創さん。これからの展望をお聞きしました。
「いろいろなものが工業化されている今、小鹿田焼の存在は現代人に対するカウンターカルチャーの端っこを担っていると思います。小鹿田焼は昔と変わらない、変える力がなかったというのが多分正しいんですけど、それが結果的に良かったわけです。これを維持するのではなく、何かを変えながら守っていかないと。ただ小鹿田焼というブランドにぶら下がっていたら未来はないかもしれない。
有名ブランドのコラボは、ちょっとムリして頑張ったところがあるのですが、後輩たちに『小鹿田って凄いんだぞ。自分の好きなブランドとコラボだってできるんだぞ』というのを見せたかった。
また、来年に薪窯をつくる予定です。登り窯だと一人では焼成できず、体力的にも大変な作業です。薪の確保もだんだん難しくなっているし、窯が壊れたらその間売上も立たない。窯は薪で焼き続けたいけど、将来的に登り窯が厳しくなったときのことも考え、一人でも焼ける燃費のいい窯があれば、いざというときにバックアップにもなりますよね」
自然と共につくるという小鹿田焼の昔ながらの製法に、個性が加わり、時代に合わせてアップデートしていく。そんな創さんの取り組みは要注目です。
アクセスマップ
JR日田駅
小鹿田焼の里がある日田市は、大分県の西部に位置し、水郷日田として知られています。江戸時代には幕府の直轄地である天領として発展。現在も、豆田町には歴史情緒あふれる町並みが残っています。日田市へのアクセスは、福岡経由が便利です。高速バスを利用すれば、福岡空港から1時間15分、博多駅から1時間40分。また、鉄道を使うなら九州新幹線 久留米駅から日田駅まで久大本線の特急利用で40分。
バス停「皿山」からの風景
唐臼風景
日田駅から小鹿田焼の里へ路線バスも運行されています。美しい棚田の車窓を楽しみながらバスに揺られ、およそ40分で終点のバス停「皿山」に到着。川に沿うように9軒の窯元が徒歩圏内に点在し、各窯元の直売所に立ち寄って器探しを楽しむことができます。また、素朴な里の風景は、国の重要文化的景観に選定。のんびり散策しながら、日本の原風景を堪能し、川のせせらぎや唐臼の音に耳を傾けてみては。
小鹿田焼陶芸館
山のそば茶屋
小鹿田焼の歴史や特徴、伝統の技法をわかりやすく紹介している「小鹿田焼陶芸館」にも立ち寄ってみたいところ。また、小鹿田焼の里唯一の食事処「山のそば茶屋」もぜひ。清流の風景とともに、手打ちの蕎麦や地鶏、山菜などを味わうことができます。