Ceramic art

伝統を受け継ぎながら個性が輝く器たち

約400年の歴史を持ち、九州を代表する焼き物といわれる「小代焼(しょうだいやき)」。今回は、2つの窯元を訪ね、伝統と個性が調和する美しき暮らしの器をご紹介します。後編は、独創的な器を作陶する山口友一(ともかず)さんの「一先窯(いっさきがま)」をご案内します。

前編はこちら


小代焼 一先窯

小代焼の伝統に新しい風を吹き込む一先窯の山口友一さん。熊本県長洲町にある窯元の2代目として伝統的な技法を守り、地元産の原料を用いながら、現在の生活に合ったデザインを追求されています。


山口友一さんの器たち

「小代焼は力強くて素朴というイメージが強いのですが、自分はまず格好いいと思われる器をめざしています」と語る山口さん。地元産の藁灰からつくられた釉薬「青小代釉」を用いたプレートは、鉄分を多く含んだ地元の土と藁灰によって、青と白が織りなす独特の色を表現。また、独自に探求した「小代藁灰翠釉」と刷毛を使った平皿も独創的な作品。
青小代釉 プレート小4,950円/小代藁灰翠釉 刷毛目7寸皿(約21cm)4,620円

粗い土の特性を活かした重厚感あふれる平皿は、神秘的な色合い。また、ドクロやイナズマのモチーフを使ったポップなデザインの平皿も目を惹きます。どちらも前述の平皿と同じ「小代藁灰翠釉」が使われていますが、全く異なる趣に驚かされます。
小代藁灰翠釉 バラン小皿4,400円/小代藁灰翠釉 皿 髑髏16,500円

これまでの重厚な趣とは全く異なる乳白色のつぶ化粧 緑釉を使ったシリーズ。可愛らしいデザインにほっと心が和みます。「小代焼はもともと乳白色の釉薬が得意で、こういう色合いは比較的出やすいんです。その特性を活かしてつくりました。同じ材料でも調合や焼き方を工夫することで、艶を出すこともマットに仕上げることもできます」
つぶ化粧 緑釉 皿 花火6,600円・筒湯呑み3,300円・マグ4,400円

テーブルに置くだけで凛とした雰囲気を漂わせる湯呑み。青小代釉のグラデーションも印象的です。また、テーブルにアクセントをもたらす三角皿も独特の風合いを持つ一品。
青小代釉 丸湯呑み2,200円/つぶ化粧 白釉 三角皿2,800円


一先窯の工房

まるでお洒落なカフェのような佇まいの工房。築150年を超える古民家をリノベーションした建物内には展示室も併設し、山口さんの作品が並びます。

地元・長洲町で採取された原土が使われています。不純物を取り除く「水簸(すいひ)」と呼ばれる方法で精製を繰り返し、手間ひまかけて陶土に。国の伝統的工芸品に指定されているため、原料や製法などにルールが定められています。

自家製の釉薬を丹念にかける山口さん。「釉薬をかけて全体に行き渡るように回し、それを何度も繰り返すことで、うっすらと模様のようなものをつくります。これによって下地に表情が生まれ、奥行き感が出せるんですよ」


山口友一さんにインタビュー

陶芸作家としての歩みと作陶する上で大切にしていることをお聞きしました。

「以前は別の仕事についていました。陶芸の道を志してからは、まず実家である小代焼一先窯で父に2年間師事したのち、他の窯元での3年間の修業を終えて跡を継ぎました。『跡を継ぐ』ということは、小代焼の伝統も継承することですので、すごく迷いました。

作品をつくることは、自己表現と考えていますので、伝統を受け継いで次に繋げるということと根本的に違うと感じていたからです。今はその迷いや矛盾を糧に、自分らしい小代焼をつくりたいと思っています亅

伝統的な小代焼の風情とはまた異なる独創的な器はどのようにして誕生したのでしょうか。

「作家として小代焼の伝統を守るのは、すごく難しく感じることもあります。伝統的工芸品ならではの制約がありますし、すでに完成された世界観もある。それでも、小代焼という拠り所があるからこそ、制約の中で創意工夫を楽しんでいます。

つくりたいもののイメージは、常に変化します。その時の感情を作品にぶつけるというわけではなく、見たものや感じたものが意識の中で混ざって時間をかけて発酵していく感覚ですね。そういったものを伝統技法や独自の工夫で表現しています。同じ釉薬でも温度や流し方を少し変えるだけで、全く違う色が出てくる。絶妙な加減が難しい反面、そこが面白いところでもあります」

小代焼 一先窯

熊本県玉名郡長洲町永塩1612-3
tel 0968-78-5631

<個展>
2026年1月24日〜2月1日 ギャラリー・ヘプタゴン(京都)
※個展の詳細や展示室のオープン日はインスタグラムを要確認

公式Instagramはこちら